MARS(マーズ)
1970年代後半に誕生したパンクロック。
古い価値観をブッ壊して自分達の手で新しいものを生み出そうとするアティチュードは、世代は違えど僕の胸にも響き、音楽だけでなくファッションや生き方にも大きな影響を与えてくれた。
セックス・ピストルズをはじめ、ラモーンズ、クラッシュ、テレヴィジョンなどのバンド勢から学んだことは本当にたくさんある。
ただ、そんな“既存の価値観をぶち壊す”という彼らでさえ、ちゃんとギターのコードを覚えて音楽理論に乗っ取った上で演奏していたので、今の時代に聴くと非常に洗練されたポップな楽曲が多いと感じている。
だからこそ、ハードロックやプログレッシブロックなどの超絶技巧のテクニックにも対抗できる“親しみやすさ”があったおかげで一大ムーヴメントとなったんじゃないか、と僕は思う。
しかし、ラモーンズやテレヴィジョンが活動の拠点としていたニューヨークのクラブ“CBGB”では、更にブッ飛んだ連中が存在していたという事実を随分後になってから知った。
それが78年に発表されたコンピレーションアルバム“NO NEW YORK”で、ここに収録されている4バンドの音源は、何十年もの時を超えてリアルに僕の耳に飛び込んできた。
(NO NEW YORK)
今では歴史的名盤となっているこの『ノー・ニューヨーク』。
元ロキシー・ミュージックのブライアン・イーノがプロデュースを務めていて、調べてみると参加した4バンドのうち3つはどんな人達だったのか知ることができたが、個人的に一番強烈だったマーズ(MARS)に関してはほとんど何も分からなかった。
(アルバム“MARS LP”)
僅かに記録されている当時の彼らは、結成から解散まで約2年という短期間の活動で、ライヴも20回ほどしかやらなかったとのことで、他のバンドと比べてもあまりに情報が少ないのはこのためなんだろう。
昔から“ひねくれ精神”があるのか、僕はバンドを代表する曲よりも一歩引いた曲が好きだったりして、『ノー・ニューヨーク』でも他の3バンド(ジェームズ・チャンス&コントーションズ、ティーンエイジ・ジーザス&ザ・ジャークス、そしてアート・リンゼイ率いるD.N.A.)の方が語り継がれている感があるけれど、僕にはマーズが圧倒的な存在感を放っていた。
(もちろん、どのバンドもめちゃくちゃ凄いです!)
このマーズがどんな曲を演奏していたかというと、もう、地獄へ突き落とされるような感覚。
生きた心地が全くしない。
聴けば、全身汗びっしょり。
脳ミソを締め付けられる。
呪いでもかけられてるかのような、オドロオドロしい音の塊。
ダントツで“ヤバい音”だ。
だけど、マーズの楽曲を聴いた時、『音楽には既存のルールがあるけれど、そこからはみ出さないと全く新しいものは産み出せないんだ!!』と気付かされたのも事実だ。
そして、それはどの分野でも、どの世界にも言えることだと思っている。
今の僕がアヴァンギャルドミュージックを演奏しているアーティストをはじめ、前衛芸術家に魅了されてしまった原点がアルバム『ノー・ニューヨーク』なのは間違いない。
そして、その中でも特にマーズのスタジオ音源を集めた『マーズLP』は美メロ好きな僕の価値観をぶち壊して、更に世界を広げてくれた。
怖い……だけど、たまに聴いてしまう。
こんな連中の音にすら魅力を感じてしまう僕自身、実は“ヤバい奴”なんだろうなと思ってしまうのだった。
Tunnel
https://youtu.be/-LL6sb0xPhM
N.N.End.
https://youtu.be/cziDr2azQ6s